ジム・マーシャル「密着」

JIM MARSHALL 「PROOF」 ジム・マーシャル「密着」
ジョエル・セルヴィン ジム・マーシャル 青山 南 フレックス・ファーム 売り上げランキング: 205675
おすすめ度の平均: 5.0
5 60〜70年代アメリカのレアなイメージ

梅佳代にうんざりしたわけではないけれど、まっとうな写真が見たくて(とても失礼な発言ごめんなさい)、ジム・マーシャルの「密着」という写真集を買った。

ぼくは、ジム・マーシャルって全然知らなかったのだけれど、少し前に、音楽に非常に詳しいトウフヤさんに教えてもらった。
70〜80年代に有名なミュージシャンの写真をたくさん撮っている写真家らしい。

写真集の中身は、ジミヘンやボブ・ディラン、ミック・ジャガー、キース、クラプトン……、と有名なミュージシャンのモノクロ写真が見開きで、左にベタ焼き、右に作品というかたちでレイアウトされている。
タイトルの「密着」は文字通りベタ焼きの「密着」でもあるし、ジム・マーシャルがその1枚をどのようにして撮ったかというプロセスの「密着」でもあるわけだ。
ちなみに原題は「PROOF」。「密着」という邦題をつけたのはお見事の一言だ。

プリントはとても好みのトーンですっかり気に入ってしまった。そして、なにより写真家のベタ焼きが見れるというところがすごい。1冊まるごとじっくり見ようと思うととても1日では足りないくらいだ。

ジム・マーシャルはあとがき(謝辞)で次のように書いている。


自己満足の産物だ、と批判するひともいるでしょう。そういう方々には、ごくふつうに、こう言っておきます——クタバレ! わたしがやりたかったのは、写真でもう1回楽しんでみようということです。この本を作りたいと思ったのも、その楽しさをいっしょに味わってほしいと思ったからです。ベタ焼きと、そこから選んだ決まりの1枚を見せたらきっと楽しいだろう、と考えたのです。
ジム・マーシャル「密着」謝辞より引用

ベタ焼きからもう一度楽しんでみようというのは、とてもよくわかる。
ぼくはすでにベタ焼きさえつくれない環境になってしまったけれど、それでもスキャンしてデジタルベタ焼きをつくりたいと思っている気持ちはジム・マーシャルが言っているのと似ているように思う。すでに過去のものとなってしまった写真をもう一度楽しんでみようじゃないかと。

彼は続けて言う。


ひとの写真を撮るということは——相手がそれを承知していようがいまいが——わたしにとっては契約だ、ということです。信頼されているし、信頼しているということです。その信頼は踏みにじられてはならないし、写真は不適切な方法で使われてはいけません。
ジム・マーシャル「密着」謝辞より引用

ぼくも少なからず外国で人の写真を撮ってきたし、こうしてサイトを開設している、人の写真を撮ってそれを発表することの罪悪感というかジレンマのようなものはずっと感じていた。それは、これからも感じ続けるんだろうと思うし、写真を撮り続ける限りついてまわる問題だろう。 

日本では、ともすると肖像権だとかプライバシーだとかいって問題になるから余計にややこしくなってしまうけれど、本質はきっと違うところにあるんだろうと思う。
ただ、だからこそ、自分の写真には責任を持ちたいと思う。その信頼を踏みにじらないように……。

なんだか大げさな話になってしまったけど、しばらくはこの素敵な写真集を眺めながら、そして、自分のベタ焼きを眺めながら写真を撮ることについてもう一度考えてみるのも悪くないんじゃないだろうか。

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