望遠レンズ
今日ふと思い出した話。
大学を休学して1年旅行する直前に、父がこんなことを言ったことがあった。
「望遠レンズって高いんだろ。父さんが買ってやるから持って行きなさい」(方言は補正)
いままで写真とかカメラのことに一切口を挟まなかっただけに、いきなりそんな話が出てきてびっくりした。
写真のことにあまり関心のない父からしたら、「憧れのレンズ=望遠レンズ」というふうに思っていたに違いない。精一杯の粋な計らいだったのだろう。
ぼくは、そのときからすでにレンジファインダー派になっていたし、望遠には興味がなかったのだけど、もちろんその場では反論しなかった。そのとき使っていた一眼レフはペンタックスのLXだったから、FA☆200mmなんていいなぁとも思った。まあ買ってもらえるんだったら望遠の1本でも持ってて損はないだろう。
あとから母が、これでその望遠レンズとやらを買うようにと5万円くれた。そして、くれぐれも他のことに使わないようにと言った。
嬉しかったけれど、同時に悲しくもあった。正直なところ5万円では、廉価版の望遠レンズくらいしか買えそうになかったからだ。
親父に悪いなぁと思いながら、結局ぼくはそのお金でMマウントのMロッコール28mmを買った。
前玉が曇っていたのでなんとか5万円以内でおさまった。
案の定、旅では28mmが活躍した。
父の思いとは裏腹に、ぼくは広角レンズでたくさん写真を撮ったのだった。
もう7年以上も前のことだからすっかり忘れてしまっていたけれど、今日中古カメラ屋のサイトで200mmのレンズを見つけて急に思い出した。
あのとき200mmのレンズを買っていたら、ぼくはいまとは違う写真を撮っていたのかもしれない。
いまはとっては微笑ましい思い出だ。
父はあのときのことを覚えているだろうか。